みとのひとりごと

40代独身、人生散歩中。

善意ビジネスへの耐えられないダンピング感

news.yahoo.co.jp

 

 ネットで、儲けは度外視で、地元地域のふれあいのために、”1本30円のみたらし団子”を販売する60代の元教師の女性の善意ビジネスが、プチ炎上している。

 東海テレビで8月下旬に放映されたニュースなのだが、愛知県一宮市で、学校教員を退職した60代女性が”1本30円のみたらし団子”の店を今年3月に開店。通常の店では1本100円以上する本格的なみたらし団子が30円で買えるとあり、地元客に評判を呼び、1人1000本以上売れる人気店となっているという。

 だが問題はその先で、そのみたらし団子の仕入れは30円であるようで、確実に採算は度外視。さらに女性が店舗でみたらし団子を作るだけでなく、旦那さんも周囲の交通誘導などを行い、商売に協力。まさに善意の手弁当で、地域のために商売を行っているというのだ。一見美談に聞こえる話なのだが、ネットのプチ炎上の原因は、この採算度外視の、善意、趣味感の強いビジネスモデルにある。年金暮らしで、かつある程度資産も持つ60代以上が趣味で開く飲食業は、周囲の飲食業にとって適正ビジネスへの競争妨害に他ならない。この店舗の周辺にみたらし団子や和菓子屋などがあるかは知らないが、周辺の店が、この”1本30円のみたらし団子”に勝てる見込みは全くない。味、見ためなどの価格要因以外で勝てる要素があればまた別だが、同じようなみたらし団子を売っている店は、絶対にこの店に太刀打ちできない。まさに”善意というダンピング”というビジネスモデルとなっており、それが一部ネットでプチ炎上しているのだ。

 これと同じ構造の事例が、日本人の平均賃金が上昇しない背景にもある。日本がバブル崩壊からいまだ立ち直れず、特に賃金面では30前とほぼ同じ水準だ。同期間に米国、欧州などでは平均賃金が1・5倍~2倍上昇していることを考えると、その差は歴然だ。特に米国と英国はの上昇幅は2倍近い。この原因はいろいろな要素が絡み合っているだろうが、その一因として高齢者が善意、趣味意識を持ち、安い賃金体系で労働市場に参入していることも大きい。高齢者にとって、働くことは生活のための収入面の確保もある一方で、それなりの年金受給を受けている高齢者にとっては、働くという生きがい=善意、趣味的な要因も強い。そのため雇用側は善意、趣味意識に甘え、高齢者の賃金を低く抑えることができ、それに合わせて一般賃金も設定し、賃金上昇は抑えられているのだ。

 こうした流れは日本の高齢化が本格してきた2000年以降に特に加速しているが、それはまさに年金だけで暮らせる高齢者の悪意のない善意、趣味ビジネスの増加が、その間の日本の賃金上昇の停滞につながっていることを彷彿とさせる。さらに2010年代以降には、この高齢者雇用にアジアからの技能実習生への搾取型の外国人雇用も本格化し、日本の賃金上昇は今も抑えられている。政府は最低賃金アップなど多くの施策で日本国民の収入アップを図り、格差是正に取り組んでいる努力は分かる。だがその一方で高齢者が善意、趣味で低賃金で働いてしまっている人が減らない限り、知らず知らずのうちに日本の一般労働者の賃金は低く押さえつけられ、安いニッポンからいつまでも抜け出せない。ただそうは言っても働くことが生きがいな高齢者に、「安く働くな」とももちろん強制もできない。なかなかに難しい問題なんだろうな。